クラウドファンディングに挑む【第1回】
- 2018/4/25
- 特集記事
- クラウドファンディングに挑む
- bragoku編集部
クラウドファンディングがさまざまなメディアで取り上げられるようになって数年が経つ。アイデアや夢を実現するためインターネットを通じて不特定多数の人たちから資金を募るその仕組みはネット社会の現代にとって、とても身近なものとなったと言える。そんなクラウドファンディングに初挑戦した社員がいた。
彼の名は小寺優貴さん。
彼が挑戦したクラウドファンディングが実行されるまでの道のりは決して平坦なものではなかった。それまで商品企画の経験がなかった一社員が、自分の想いを具現化するために初めて企画を提案した。
企画とは何か、ブランドを作るとはどういうことなのか━。
0からスタートした挑戦だったこともあり幾度も壁にぶつかったが、会社や仲間、最高の技術を持った職人らの助言や協力が大きな力となり一つひとつクリアしていく。一人の男の企画からスタートしたプロジェクトは、いつしか周りの人たちや会社を巻き込んだ一大プロジェクトへ…。会社としても初の試みとなるクラウドファンディングへの挑戦を、何の経験もない一人の社員がいかにして成功へと導くことができたのか━。その軌跡に迫った。
商品企画未経験の社員が企画を提案
小寺さんが勤めている株式会社ファヴールマルシェは、インターネットの拡大を続けるEC市場において商品企画から店舗運営、プロモーション、物流、カスタマーサポート、そしてシステム開発までECビジネスを自ら実践している。
小寺さんは2016年にデザイナーとして入社。主にグラフィックやWEB制作の仕事を担当し、商品企画とは全く無縁な状態だった。そんな彼が商品企画開発のプロジェクトを立ち上げることになったのは、会社の社風が大きく関わっていた。社内では、日ごろから社員のニッチな企画やアイデアを募集しており、良い企画に関しては具現化するためにバックアップする体制が整っている。当時出されていた商品企画開発の条件は「1万人に一人が購入してくれるニッチな企画」、「社会貢献を兼ねている企画」の2点。周りの社員がモノ作りに取り組んでいる中で、いつしか「自分でも商品を企画したい」と思った小寺さんは、2017年9月、企画書作りに取り組み始めた。
当初考案した企画は、花粉症対策グッズ、匂い防止グッズ、ハンドクリームなど、自社のネットワークを活かした関連企業の商材をもとに企画したものであったが、どれも採用には至らなかった。
「入社して1年あまり、コスメや美容成分等の知識も浅い私の企画案は、エビデンスやターゲットの選定など、どれをとっても曖昧で採用には至りませんでした。そこで、思い切って企画の方向転換をしてみたんです。せっかくやるんだったら自分が興味あること、今まで会社が扱っていなかった新しいジャンルにチャレンジする方が0から1を生み出す面白さがあるはずですし、その方がモチベーションも高まり最後までやり遂げることができるだろうと考え、今までとは全く異なる商品を企画することにしました」
そこで目を付けたのが「ウェザリング」だった。
ウェザリングとは模型における塗装技法のひとつで、もともとのweatheringという語の意味は「風化」。素組みの模型では綺麗すぎて実感的でないことがある。そこで雨風にさらされたリアルな外観を模した「汚れ」、「風化」などの表現を加える技法があり、これをウェザリングと呼んでいる。
「子供の頃、よくプラモデルを作っていたのですが、久しぶりに作ってみたくなって大人買いをしたんです。最初は普通に作っていたのですが、作った後にあえて汚す作業がテレビで紹介されていてすごくカッコいいなと思って自分でもやってみたんですよ。そうしたらすごく面白くてはまってしまいました」
このウェザリングと「何か」で何か企画できないかと、その時は軽く考えていた段階だった。
そのようなことを考えていた時、好きだった海外ドラマで再びウェザリングを目にすることになる。
「ディストピア(ユートピア(理想郷)の正反対の社会、衰退してしまった未来)の世界が舞台のドラマだったのですが、登場人物たちが着ている衣装を見た時に、これもドラマ制作の美術さんがウェザリングしているんだなとふと思いました。その時でした、アパレルをウェザリングしたものを世に出すと面白いのではないかと…」
ウェザリングの持つ「こなれ感」や「MAD感(狂っている)」はテレビゲームやテレビドラマ、コスプレイベントなど、日常生活の中にも目にする機会が多い。それをアパレルで表現するために、まずは自身がイメージするアパレルを自力で作ってみることにした。
「ウェザリング感を出すために、まずは染色が重要だと考えました。それも+αをもたらす塗料が商品価値を高めると思い、まずは手元にあったコーヒーや茶葉を使ってオーガニックに染めてみることにしました。100円ショップで購入したコーヒーやお茶の粉を濃く煮出しその中で古着を煮込んでみたんです。ある程度、色は付きましたがイメージした染まりとはかけ離れたものでした。その後、茶色や黒に染色する方法をネット検索で調べていく過程で、奄美大島に1,300年続く大島紬の泥染め職人がいることを知りました。タイミングよく都内の鹿児島県のアンテナショップで泥染が採用されている商品の展示会があり、実際に手にとって見ることができました。最初に奄美大島の泥染めを見たときに、とても美しく染まっているシャツに感動を受けました。展示会のスタッフの方にも丁寧に染め方や染まり具合の調整ができることなどの説明をしていただきました。また『伝統』が背負う後継者の減少や生産数の減少の問題点についてもお聞きすることができ、ぜひ『奄美大島の泥染』で商品開発を進めて『奄美大島の伝統』にも貢献したいと思いました」
この「奄美大島の泥染」との出会いが、小寺さんにとっても会社にとっても初の試みとなる「クラウドファンディングに挑む」きっかけとなる。
第2回へ続く・・・