すっかり時間が経ってしまいましたが、3月に幕張メッセで日本薬学会がありました。
参加の目的は当然ながら新規素材から機能性まで含めた幅広い情報収集です。学会で得た情報を細かく発信していくことも重要なことではありますが、今回のコラムは一つ一つ紹介するのではなく、学会で発表される情報から新しい素材が最終製品に利用されるまでの道のりを紹介します。
一つ目の課題
「新しい原料はどこから見つけてくるのか」
例えば、民間伝承医療があるような秘境に生息する植物だったり、深海に生息する微生物だったり、或いは乳酸菌のような細菌だったりと、素材は採取するバイタリティがあれば幅広く見つけられます。素材を探すことは大切な研究の一つです。
二つ目の課題
「見つけてきた素材に活性があるかどうか」
植物の場合、強弱にこだわらなければ抗酸化力はあるでしょう。その他、抗菌活性や細胞賦活など活性の種類は多岐に渡りますが、多くの場合は抗酸化力に起因するので最初の指標はやはり抗酸化力になるかもしれません。つまり抗酸化力が弱かった素材はこの時点で研究素材としての優先度が少し下がる可能性があります。
続いて「活性本体を探す」ことになります。活性本体とは◎〇エキスに含まれている中で実際に活性のもととなっている成分(化合物)のことです。活性本体には単一の化合物の場合や、作用機序の異なる活性の弱い複数の化合物が複合して強い活性を生んでいるケースがあります。ここで見事活性本体を見つけられれば、今度は「活性本体の合成方法について」研究することができます。化合物を合成できるようになると、似たような化合物について「活性の強度や選択性を調べる構造活性相関」の研究ができるようになり、場合によっては新薬を開発するきっかけにもなります。
新規成分を探索する一方で「新たな分析方法や分析機器の開発」もまた重要な研究です。分析技術が発展することにより極微量な成分を特定することやサンプルのロスを減らすことが可能になるでしょう。また、分析速度が上がれば一度に調べられる種類が増えることも考えられます。さらに新たな分析方法により視点が変えられるかもしれません。
これらの研究は基礎研究の一部です。有用な新規成分や新規素材を見つけ、それらを特定するための分析方法を見出したとしても、実用化するためにはまだまだ長い道のりが待っています。
実用化するためにはまず「安全性の評価」が必要です。細胞毒性試験に始まり、動物実験まで摂取量を変化させながら摂取上限を設定していきます。ここで、毒性が高いとせっかく見つけた素材はすぐには使えなくなり、また新規素材の探索を行うことになります。ただ、毒性の作用機序や薬にならないかを検討したり、食品や化粧品素材としてではなく別の研究素材になる場合も多々あります。あくまでも個人的な所感ですが、実際には食品素材や化粧品素材よりも医薬品としての利用研究がメインではないかと思います。
安全性と同時並行して「安定性について」も検討する必要があります。実用化するためには保管条件や禁忌条件、保存期間など細かく設定していかなければいけません。特に重要なのは安定しない条件を見つけ出すことだと思います。『こんな条件で保管したら物性が変わってしまったよ』という結果は、一見すると実験失敗に見えますが、このような情報が無いと実際に流通してから事故のもとになります。
安全性と安定性が担保されると、ようやく実用化の目途が立ってきます。ここまできて改めて「機能性の評価」がされるでしょう。濃度・容量・頻度について、それぞれの適正値が浮かび上がってきます。最終製品に配合されるまで、もう目前に迫ってきました。
ところで、難題をクリアしながらようやく実用化が見えてきた新素材ですが、まだ課題はあります。1つはお金、いわゆる生産コストの問題。もう1つは量産化の問題です。どんなに有用な素材でも1グラムで数百万円もするようでは使える機会が限定的になってしまいます。また1年間に数キログラムしか採れないような素材でも使い物になりません。そこでコストを抑えるために、「いかに効率よく採取するか」といった研究や、「素材を安定供給するための均一な栽培方法や培養方法」に関する研究が行われます。
以上の課題をクリアしてようやく『安全性・安定性ともに充分なエビデンスのある新規の機能性素材』を配合した製品が<<使いやすい価格で>>この世に生まれるのです。
当然ながら1つの企業や1つの研究室で全ての研究がまかなえる訳ではなく、それぞれが得意の分野で新しい発見(発明)を求めて研究しています。そしてそれぞれの分野が一堂に会して発表される場が薬学会だと思っています。製品を作る立場にいる当社の場合、それぞれの研究を結びつける(私の頭の中で)場に役立っています。
最後に、薬学会でポスター発表していた私の先輩の研究を紹介します。糸状菌に含まれる成分探索で新規の含窒素化合物の単離・構造解析と活性評価を行っています。扱っている素材が糸状菌なので、最終製品へ使用することは難しい素材ではありますが、有用性の評価や構造活性相関など、これからさらに深い研究活動を期待しています。
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