インタビュー「TAYLOR STITCH / トランスコスモス株式会社」
- 2018/9/5
- 特集記事
- ブラゴク冊子
- bragoku編集部
EC化率90%のサンフランシスコ発
デジタルネイティブブランドから
アパレルブランドの生き残り策について学ぶ
こだわりと熱意に溢れたD2Cブランド
トランスコスモス株式会社 水谷大佑さん
━━まず、TAYLOR STITCHがどういったブランドか教えてください。
水谷 TAYLOR STITCHはアメリカのサンフランシスコ発のブランドです。日本ではまだそれほど認知はされておりませんが、アメリカでは立ち上がって10年目になります。2008年にCEOのマイク(Mike Maher)を含めて3人で立ち上げたブランドで、カスタムオーダーシャツの販売からスタートしました。当時は3人とも大学生でしたが、彼らの父親が香港などに出張に行ったときにカスタムオーダーシャツを作ってきて、それを借りて着たところ、とても良かったことからカスタムオーダーシャツを作ることに興味を持ったそうです。マイキー(Mikey Armenta)がクリエイティブディレクターで、デザイナーはニック(Nick Kemp)が務めています。そんな彼らの魅力やセンス自体もすごくブランドの強みになっています。
━━本国アメリカではどういった展開をされているのですか?
水谷 カスタムオーダーシャツの販売からスタートしましたが、現在はジャケットやデニムなど、さまざまなアイテムを展開しています。サンフランシスコに2店舗を構えていますが、ECサイトでの販売も行っており、実は売上の90%近くがECとなっています。そのためアメリカでは、D2Cブランドとして認知されています。
━━人気の秘密は?
水谷 モノ作りの本格的な「確かさ」です。カスタムオーダーシャツを作るには必要な要素がいくつもあります。まずは、お客さまのサイズを正確に測る技術が必要です。せっかくきれいに採寸しているのに、仕上げが体に沿っていないというのは許されないので、当然身体にフィットして、着心地が良いシャツを作る力も必要です。 また、すぐにダメになってしまってもいけないので、上質な素材や、縫製をする能力の高い工場を見つけることも重要になってきます。素材や縫製方法は着心地にも影響しますから。
━━素材にもこだわっているのですか?
水谷 はい。カスタムオーダーとしてお客さまのご要望に応えるため、多種の素材を扱えるように生地屋や工場との繋がりをたくさん持っています。日本も含め、世界中の素材を使いますし、理想の素材がなければ、自分たちでオリジナルの素材を作るなど、素材に関しても本当に情熱を注いでいます。ファッション業界に携わる方が見ても、TAYLOR STITCHのモノ作りに対する情熱や姿勢、そしてそれを具現化する素材開発や縫製技術は素晴らしいと思います。
━━モノ作りへのこだわりについて、もう少し詳しく教えてください。
水谷 商品一つひとつにこだわりがあります。例えば、ボタンダウンの定番のシャツ“ジャック”。袖のステッチは、シングルニードルステッチという縫い方を採用しています。文字通り1本針で縫い上げる縫製技術ですが、一度縫った後に縫い代を挟んでもう一度縫います。縫製部分の強度を上げ、耐久性を確保するために行われるのですが、手間と時間がかかる上、高い技術が必要とされます。肌触りも良くなりますので、より快適になります。
作りたいシャツにあわせて異なる縫製技術を使い分け、最適な技術を採用するのは、「このシャツはこういうふうに着てほしい」という想いがあるからこそのこだわりです。
実体験に基づくリアルなライフスタイル提案
━━毎月、新コレクションを作るそうですね?
水谷 はい。毎月発表する新コレクションは「本格的なライフスタイルを提案する」点がTAYLOR STITCHの特色です。例えば、サーファーが着ることを想定したファッションであったり、自転車通勤を想定したファッションであったりと、具体的なライフスタイルを提案して、そのイメージに沿ったファッションをコレクションにしています。
日本で「ライフスタイル提案」というと、ニュアンス的なものを取り入れた、とても分かりやすいものが多いかと思います。一方、TAYLOR STITCHのライフスタイル提案はもっと深い。例えば、自転車通勤のイメージで作られたコレクション。パンツはダブルポケットになっていて、普通のポケットの後ろにもう一つ、ジップのついたポケットが追加されています。自転車に乗ってもポケットの中身が落ちないようにという工夫です。
また、Tシャツはストレッチ性が強く、吸湿性と防臭効果があるメリノウールで作られています。このTシャツを作った際に、彼ら自身12日間ずっと着ていたそうですが、臭いがつかなかったそうです。他にもさまざまな工夫があって、どこにどんな機能が必要か、非常によく考えられて作られています。
それがなぜかというと、CEOのマイクはフライフィッシングがすごく好きだったり、クリエイティブディレクターのマイキーはサーフィンもスケートボードもプロレベルの腕前だったりと、彼ら自身が本当に多趣味でアクティブな人たちだからです。仕事に対しても、人生を楽しむことに対しても情熱を捧げている。そういう人たちが作り手なわけですから、ライフスタイル提案も当然リアルなものになる。実体験に基づいているからこそ、ファッション性と機能性を兼ね備えたコレクションを作れるのです。真のアクティビストにのみ見えるもの、感じられるものがファッションアイテムに付与されています。
顧客とつくるブランド
━━コレクションの魅力を伝えることにもこだわっているそうですね。
水谷 INSTAGRAMに載せるたった一枚の写真のためにネパールへPRチームを行かせるなど、クリエイティブにも大変こだわっており、ECサイトでの『顧客体験』をとても大事にしています。それから、メールマガジンもとても大事にしていて、企画しているアイテムについて情報を配信しています。例えば、シャツであれば「このシャツがどんなに素晴らしいか」というこだわりを写真と文章を使って説明します。
━━コレクションは、クラウドファンディングを活用しているとのことですが、詳しく聞かせていただけますか。
水谷 例えば3カ月後に販売するシャツを、コレクション発表時のメルマガで「今ご注文いただければ20%OFFで購入できます」と訴えて、事前購入を促します。そして生産に先駆けて代金をいただく。一定数に達したら、そのシャツを商品化して作るという流れです。事前に代金をいただいているので、ご注文を受けた分は、基本的にプロパー消化率100%となります。
また、需要予測が出来るという利点もあります。顧客が「事前にお金を払ってでも欲しい」という商品なので、マーケティング的にもどれだけ売れるかという予測にも繋がります。クラウドファンディングで人気があった商品は、受注分以上に商品を作り、実店舗やECサイトで販売も行っています。こういった商品は、やはり良く売れるのです。
━━購入者は安く購入できるわけですし、双方にメリットがありますね。
水谷 この仕組みがブランド成長のエンジンになりました。ただ、それだけではないのです。お客さまに話を聞いてみると、「自分が選んだものが世に出るのは誇らしい」といった感じもあるみたいです。ブランドに対してすごく愛着を持ってくださる方が多いですね。お客さまがふらっとオフィスにやってきて、一緒にピザを食べるといった、日本ではありえないようなこともあったりします。
あえてのニッチな人選でプロモーション
━━日本ではどういった展開をされていますか?
水谷 鎌倉に店舗を構えていて、自社ECでの販売もしています。日本ではまだ認知されていないブランドだからこそ、お客さまに、TAYLOR STITCHの世界観をしっかり伝えて、楽しんでもらえるように、アメリカと同じシステムを使い、写真も基本的にアメリカのものを使用しています。それから、多治見市の美濃で作っているマグカップといった日本限定商品や、同じサンフランシスコ発で鎌倉にも店舗があるコーヒーショップ「VERVE COFFEE」とコラボした、
岡山のデニム生地を使ったエプロンなどのコラボレート商品も販売しています。日本企画商品も本国と同様、縫製技術と素材にこだわっています。
━━プロモーションについては?
水谷 デジタルプロモーションの一つとして、「TAYLOR’S CONNECT」を創刊しました。第一弾はバイクトライアル全日本チャンピオンの西窪友海さんを特集しました。バイクトライアルというスポーツの知名度はそれほど高くないかもしれませんが、バイクトライアルに情熱を捧げている西窪さんは、TAYLOR STITCHのより良い商品を作り出すために情熱を捧げるところと、とても似ていると思い、起用しました。彼の情熱や、技術を追求する姿勢と努力、彼自身のキャラクターに迫りながら、TAYLOR STITCHとの共通点を見出していきました。もちろん西窪さんも、TAYLOR STITCHを愛用してくださっています。
━━人選はどういった基準で?
水谷 TAYLOR STITCHの商品はもちろん、モノ作りに対しての姿勢や考え、ブランドの世界観を含めて共感してくださる方であることが、とても重要なポイントです。
同じような情熱や考えを持った方とTAYLOR STITCHが出会って繋がる。そしてその繋がりは、どんどん大きく広がっていく。『TAYLOR’S CONNECT』は、そんな想いで名付けました。
また、そういう方々はファンとの繋がりがとても深く、強いと感じています。そういう方々が、TAYLOR SITICHを本当に気に入って、ご愛用いただければ、ファンの方々もTAYLOR STITCHに自然と興味を持ってくれる可能性も高く、そこからまたブランドが広まっていけばいいなと思っています。
━━今後の日本展開としてはどのようなことを考えていらっしゃいますか?
水谷 今はTAYLOR STITCHと日本の有名ブランドとのコラボレーションも考えています。無名のブランドが、日本の有名なブランドとコラボレーションをすることはなかなか簡単ではありません。それでもTAYLOR STITCHの魅力を理解していただければ、「このブランドとなら」と言っていただけるところも、きっとあると思います。また、よりデジタルプロモーションにも力を入れていきたいと思っています。
アパレル業界が取り組むべきは「デジアナ化」
━━水谷様はこれまでバイヤーを始め、アパレル業界に深く関わってきたと思いますが、アパレル業界とデジタルの関係性についてどう思われますか?
水谷 今のアパレル業界に必要なのは「デジアナ化」だと思います。顧客主導の時代において、「デジタルとリアルの双方で補完しあう」ということです。まずデジタルの面では、ECやデジタルプロモーションを軸に、デジタルでしか接点を持てないお客さまと接点を持ち、スマートフォンを起点にコミュニケーションを取る。そして、ECサイトにも、実店舗にも来ていただけるような価値をお客さまに提供する。
そしてリアルの面では、デジタルネイティブの新しいお客さまが実店舗にご来店された際、「お店でお買い物するのっていいな」と思ってもらえる努力と工夫をし続けることが重要だと考えています。
━━デジタルでしか接点を持てないお客さまというと?
水谷 今の30代40代は正にデジアナ世代で、アナログもデジタルも経験しているので、実店舗にも来てくれるし、雑誌も読んでいる人もまだ多いと思います。しかし、もっと若い、いわゆるデジタルネイティブ世代は、情報の入手経路から異なり、ブランドとの出会いも変化している。これから10年20年経って、彼らがブランドの対象顧客となったときに、もしそのブランドが実店舗でしか顧客接点がなければ、お客さまと接点を持つことができません。どんなに良いブランドであっても、認知されない可能性もあります。だから今から準備を進めるべきだと思います。
━━今後生き残るためにも、今からの取り組みが大事ということですね。
水谷 もちろんアナログ面の取組みも大切です。ECでしか買い物をせず、実店舗には行かないという人たちが実際に実店舗に来られたときに、魅力を感じていただけるお店とはどのようなお店なのか。これについてはTAYLOR STITCHを通して見つけられたらいいなと思っています。
トランスコスモス株式会社
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括
グローバルEC・ダイレクトセールス本部
ライフスタイル事業部
エグゼクティブマネージャー
クリエイティブディレクター
水谷大佑(みずたに だいすけ)さん
トランスコスモス株式会社
〒150-8530
東京都渋谷区渋谷3-25-18
TEL03-4363-0583
URL:www.trans-cosmos.co.jp
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