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【第2回】教えて!阿部博士

いつの時代でもヒットコンテンツになるダイエット商材。手軽に痩せたいという、ユーザーのニーズに応える形で色々な製品が市場に出回っていますが、果たして本当に飲むだけで痩せることが可能でしょうか。
私の見解は“健康を損ねても構わないなら可能”です。

まず痩せるとは何を意味するかについて、下記の2通りの解釈を考えます。
① 痩せる=体重が減ると解釈する場合
② 痩せる=体が締まると解釈する場合
①と②ではアプローチが変わります。

① 痩せる=体重が減ると考える場合

「体重の増減=摂取カロリー消費カロリー」なので、
摂取カロリー消費カロリーを上回るカロリー過多の状態になると体重は増え、
摂取カロリー消費カロリーを下回るカロリー不足の状態は体重が減る、
ということを大原則とします。

実際には代謝がスムーズに行われるかという問題や、1日当たりどの程度歩いているかなど細かい条件がつきますが、こんにゃくや大根のような低カロリーの食材を中心に生活を続けていれば、カロリー不足の状態となり、体重は落ちます。人間が生活するうえで自然に消費されているカロリーが概ね1,800kcalとされているので、体重の増減については、これを一つの目安と捉えるべきかもしれません。

それでは、「体重を減らす」場合にサプリメントを導入するには、どのような目的の素材がいいのでしょうか。

①-1 摂取カロリーを抑える

カロリーの摂取をどのように減らすかですが、
・食欲を抑えて物理的にカロリーを摂取させない→ポテトプロテインなど
・糖質・脂質の吸収を抑えて生理的にカロリーを摂取させない→難消化性デキストリンなど
・排出を促すことでカロリー摂取する前に体外に出す→キャンドルブッシュなど

パターンによって上記のような素材が考えられます。なお、どの素材も既に市場に出回っているものです。これらについて、多少は変化があるかもしれませんが、劇的に体重が落ちたという話は聞きません。これが一つの答えだと思います。
それぞれ素材自体のエビデンスはありますが、もう一超えが必要なのでしょう。しかし摂取量や摂取頻度を上げることは健康を損ねるリスクが高まるため、私としては勧められません。

①-2 消費カロリーを増やす

10年ほど前に「♪燃焼系~燃焼系~♪」というフレーズが印象的な飲料水のCMがありました。健康食品において脂肪や糖の燃焼を謳うことはNG。……という背景は別にしても実際のところ、「消費カロリーを増やす」ことが出来ると考えられるのは、発汗の促進くらいではないかと思います。発汗が促進される素材としては、ショウガエキスやトウガラシエキスなどがあります。
人間は糖類や脂質等がエネルギー源となっていますが、体内で糖を消費するときに発熱し、その発熱によって、発汗が起こります。そこで糖の燃焼から、発汗とカロリーについて考えてみましょう。

糖(グルコースの燃焼)
C6H12O6+6O2=6CO2+6H2O+676kcal(※実際はこんな簡単な反応ではないです)

上記の化学反応式は、呼吸によって糖が完全燃焼し、水分と二酸化炭素へ分解されることを示します。
糖1molは180.156グラムなので約180g 、H2O1molは18.01528g なので約18g 。よって6H2Oは約108g =約108ml と解釈し、いささか乱暴にいうと単純計算では汗100mLあたりのカロリー消費は676kcalと考えられます。

さて、前述のように発汗が促進される素材もありますが、実際のところこれらを摂取しても、50mlの発汗(ハンカチが絞れる程度の水分量=338kcal)さえ難しいのではないでしょうか。また、一度に大量に汗をかくことも健康にはあまりよくありません。

これらの結論として、何もせずにサプリメントだけで健康状態を維持しつつ体重を減らすことは限りなく不可能に近いと判断します。

② 痩せる=体を引き締めると考える場合

「痩せる=体を引き締める」と考えた場合は、
・内臓脂肪や皮下脂肪を減らす素材
・筋量を増やす素材
の2通りが考えられ、どちらの素材も既に出回っています。

内臓脂肪の減少に関しては、脂肪の蓄積を阻害したり、脂肪の分解を促進させたりするメカニズムですが、各メーカーが公表している概要データでは細かい条件が不明のため評価しにくい部分があります。
一方、筋量を増やす素材については、プロテインやHMBと言った筋肉関連の素材が挙げられます。ただし、筋量を増やすには物理的な負荷が必要となるので、「何もせずに」筋量を増やすことはかなり難しいです。例えば、ウエイトトレーニングのような負荷運動を行っている方の場合は効果的に引き締まるでしょう。また高齢者の場合は、日常の歩行でも充分な負荷がかかるので、歩行に必要な筋肉を維持するためには効果的かもしれません。
私のような中年の場合は、歩行だけでは負荷運動としては不充分な可能性が高く、痩せる目的での摂取となると何かしらの運動をプラスしないといけないと考えています。

なおプロテイン・HMB共に、過剰摂取については腎機能や肝機能を弱めるリスクが上昇するので、効果が得られないからと言って大量に摂取することは勧められません。

これらの見解から、飲むだけで体を引き締めることも限りなく不可能に近いということが私の結論です。

今回もまた市場の人気商材に対して否定的な見解を述べてしまいましたが、個人的には飲むだけで痩せるようなアイテムがあればいいなと思ってはいます。ただし、もし飲むだけで健康的に痩せるアイテムが存在するなら、それはもうサプリメントではなく薬剤としての扱いをする必要がありそうです。
気づかぬうちに一服盛られてゲッソリしても怖いですからね。

阿部哲朗

阿部哲朗

投稿者プロフィール

・医療美容研究所 所長 / 博士(創薬科学)
・1979年6月26日生まれ、北海道出身。
・鹿児島大学理学部生命化学科卒業。
・北海道大学大学院生命科学院生命医薬科学コース修士課程修了。
・2018年3月、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻博士後期課程修了。
 研究テーマは「植物に由来する健康機能性成分の探索」。
・趣味:将棋(四段)、スポーツ観戦 etc
・好きな言葉:①僕の前に道はない(道程より)
       ②人生=修行ナリ(S.O.W. センスオブワンダーより)

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